あぁ、暑い。
そう感じたのはきっと、気のせいではない。 確かに最初にくっついたのは自分だった、とは思うが、暑さに負けて途中から離れた筈。 彼に背を向けて、ベッドの端に移動した筈だった。 けれども、いつの間にかを腕の中に巻き込んで、 背中をぴったりと自分の胸の中にしまいこんでいるこの男に、苦笑するしかない。 どうしてこうもくっつきたがるのか、には判りかねたが、ふと振り返ってディアッカに目を移せば、 規則的な寝息が聞こえる証拠に、彼の胸元が上下しているのがわかる。 彼の睡眠を邪魔しないように腕をずらし、彼の傍から少しだけ離れてベッドの端に近づく。 体温を受け止めていないシーツはかなりひんやりとしているが、火照った身体には気持ちがいい。 暑さを忘れ、再び眠りに沈み込んだ頃、気づけば追いかけるように背中にくっついてくる暖かいというよりは熱いディアッカ本体。 暑いのでまた離れ、再び追いかけられ・・・と数度繰り返した後、水でも飲もうとは彼を起こさないようにベッドを抜け出した。 無論、彼の腕からも。は軍人ではないけれども、暗闇の中を気配を消して歩くのには慣れていた。 というよりも、繰り返しの日々に身に染み付いていった感覚ともいうべきだろうか、別に悪いものではないと思う。 フローリングのひんやりとした感覚に身を任せながらも、は電気をつけることなく、冷蔵庫の扉を開けた。 白熱の電光色と共に、ひやりとした空気を押し出しているように感じる。 隙間はたくさんあるのに、ミネラルウォーターの入った500mlのペットボトルが3本、棚に寝かされていた。 真ん中のペットボトルだけ、中身が少ない。おそらく彼の飲みかけだろう、それを取り出した。 少しだけ力を込めて蓋を開け、口元に運ぶ。水が心地よく口内に流れ込むと思ったその時、ペットボトルが手の中から消えた。


「ちょ・・・!」


背後から延ばされた左手の主に向かって、抗議の声とともに振り返る。 はすかさず、奪ったボトルを傾け水を飲み込むディアッカの喉仏が上下するのを睨みつける。


「なに?」


飲みながら視線だけをこっちに投げてたずねる。


「酷くない?」

「・・・何が?」


ようやくボトルを口から離し、水に濡れる唇を右手の甲で気だるげに拭う。 一瞬ばかり、彼とキスする瞬間を思い出しては慌てて目を逸らした。同時にあたしはいくつだ、とは思わず自分を叱咤する。


「水」

「ん?」


浅く受け流すような態度には誤魔化すなとばかりにできるだけ不機嫌な声を出そうとした。


「あたしが飲もうとしてたの」

「・・・悪ぃ悪ぃ。あー・・・でっかい声出すなよ。深夜だし。何より眠いから」

「なんなら、目ぇ、さまさせてあげよっか? ディアッカ」


嫌味っぽく呟いたの言葉は聞かないことにしたのか、ディアッカはさらにボトルの水を煽る。 全く譲ってはくれそうにないその飲みっぷりに、は諦めて新たにボトルを取り出そうと冷蔵庫に手をかけた。 彼に背を向けるかたちとなったけれども、ドアを開けたと同時に、突然肩に強い力がかかった。 それがディアッカの手だと気づいたのは眠さがあいまってか振り返った瞬間のことで、そのまま引き寄せられる。 寝起きで力の加減が上手くできないのか驚くほど強いその力に、の足元はおぼつかないものになる。 どん、とディアッカの腕と胸が彼女を抱きとめて、そのまま上から覆いかぶさるように強引に口付けてきた。 身体が熱ければ、やはり唇も熱い。いや、これはただの錯覚かもしれないとは合わせた唇の隙間を思い無意識に推測する。 けれども、秘密を暴くように這い出てきた舌先はひんやりと冷えている。 突然の口付けに驚くどころか、惰性のように受け入れているの唇を軽く舌先でなぞり、開くように促してくる。 催促されるままに恐る恐る薄く開くと流れ込んでくるのは冷たいミネラルウォーターだった。 加減することなく流される水を焦って嚥下するも、含みきれなかったものが口の端から零れ、首筋を伝う。 その跡を追いかけるようにディアッカの唇は優しく辿っていく。 何か文句を言おうにも、の口から漏れるのは吐息ばかりで、憎まれ口などは暫くは叩けそうになかった。


「これで満足?」


の鎖骨に跡をつけるように悪戯に軽く噛み付いた後、顔を上げたディアッカは喉の奥で笑いながら言った。


「全然足りない」

「・・・へぇ?」


本音と憎まれ口が混ざった事を言うに、ディアッカはくつくつと喉の奥で笑うと、再び唇を合わせてくる。 暗闇の中でも異様なほどはっきりとした雰囲気を纏う彼の瞳に吸い寄せられるようには催促するように喉を上げた。 息が触れ合いそうなほどの近さで、驚くほどの実感をもって触れ合う。
ディアッカは寄りかかったままのの腰を右手で強く引き寄せ、脚が軽く浮く程度に持ち上げると、
左手で器用にも冷蔵庫の扉を閉め、唇をの額に押し当てるように抱え込み、彼の足は寝室へと戻り始める。 彼の足できっかり12歩のその場所にを下ろすと、その右肩にその額を押し当てて呟いた。


「勝手にどっかいかないでくれよ、おちおち眠れない」


からの反駁の声を塞ぐように軽く唇を合わせてくるその態度は、から見ればただの照れ隠しのようだ。 思わず口元がほころぶのを抑え切れずには笑った。


「じゃあ、あんまりくっつかないでね。眠れないもの」

「えー・・・なんで?」

「暑いから。寝てて汗だらけってイヤじゃない?」

「別にいいじゃないの? 汗くらい」


「なんなら一緒にかく?」などと軽口を言いながら首筋に舌を這わせてくるディアッカの声に、は擽ったそうに身をよじり、ただ笑うばかりだ。












Shiver Night

 ( その鼓動はいつだって、あたしの名前をよんでいる )







20070808@原稿完成 盟友・我妻流為嬢に捧ぐ