俺の分身を見つけた。を初めて見た瞬間に確信した。喩えるならそうだな・・・俺たちは双子だ。 互いが互いの一部であり、互いの持つ価値観は変らない。互いを変えることもない。真に求めていたもの。 彼女は俺と同じものが好きだし、夜起きて明け方眠りにつくということ、つまり俺が一体何をしているのかを理解してくれている 。 窓の外を気まぐれに眺めながら、そろそろ地平線に落ちていく太陽を眺め遣る。太陽に満ち欠けはなく、月ほどの不実さはない。


「なぁ、それって意味あるのか?」


ソファーを背にして、無遠慮に投げ出されたの脚の曲線を見つめながら、俺は呟く。 ふと、雑誌のページをめくる指が止まる。あっさりと雑誌を閉じると、はああこれと太腿にちらつく黒と白のコントラストを覗く。 白いブラウスに合わせた黒いスカートという組み合わせもあいまって、どこか不道徳なイメージがその一点に溢れる。


「結局隠れて見えねぇんだろ?」


俺の片手で完全ではないが軽くは掴める彼女の太腿をできるだけ労わるような手つきでなぞる。 はかすかに身をよじって、くすぐったそうな笑い声を上げるけれどお咎めの声はない。 なので俺の手は無遠慮にそこに置かれたままだ。からお咎めが出ない以上、別に外す必要もないだろう?


「そうしたら、ディーノだっておあいこだわ」


俺の首元を指差し、でしょう、と同意を促すようには首を傾けた。 まぁそうだな、と曖昧な同意を返す俺を見て口元を引き上げて、俺の左肩に右足をのせる。 すっと伸びた脚を窓から差し込む光がやわらかく煽る。曲線を強調するように陰影のついた脚を眺めながら、の身体を思い出す。 顎が首元に影を落とし、俺を見つめる瞳は相変わらず謎めいていて、唇はぬれたように赤く光っている。 その足元に視線を落とせば、脚を上げた所為で先ほどちらりと見えた、ハートを刳り貫いたようなモチーフのタトゥが露になる。 女が身体を傷つける事は関心しねぇけど、似合っているから悪くもない。


「キスして?」

「足に?」

「もちろん、」

「仰せのままに」


俺はを見つめながら小さくほほえむと、その足を攫うように左手で包みくちびるを押し当てた。押し当てる足の柔らかさに思わず唇が綻ぶ。 足の太腿の際どいところで輝くハートのタトゥをみせつけるように足を差し出す。 更にその上にはあまり役に立っていない安っぽいピンクのガーターベルトがくっついていた。女というよりももっと危うい。 処女と娼婦のようなアンバランスな組み合わせを彷彿とさせて、俺はこんな安っぽい誘惑に引っかかっちまう。それはきっと発端がこいつだからだ。 その行儀の悪い足を押しのけてソファーにゆうゆうと横になっていたへとのしかかり、挑発するような悪戯な笑みを浮かべる唇ごと塞いでやる。 俺が仕掛けるのを待っていたみたいに、は少女らしい笑い声を上げる。そんなはやっぱり柔らかくて、女って可愛い生き物だなとつくづく思った。 唇を触れ合わせるだけのキスには飽き足らず、互いに舌を差し出しす。舌と唾液のともなった音だけで腰の浮くようなキスだった。 舌のざらつきの摩擦を感じる。咬みつくような最初のキスで、の唇が腫れたように赤くなっているのがわかった。 浅く息をつくの柔らかな手のひらをあわせながら、今更ながら迷っていると、


「このタトゥーに意味はちゃんとあるの」

「これに?」

「そう、だって・・・こんなところ、限られた人にしか見れないでしょう?」

「その限られた人間だと自惚れても?」

「もちろん」


浅はかといえばそうかもしれない。けれどもちょっとかわいらしい答えだなと思ってしまった俺はかなり重症の類に入ると思う。 これも仕方がない。不道徳な俺を許してくれよジーザス。


「ね、ディーノ」

「ん?」

「キスだけで足りる?」













Eat Me, Drink Me

( 今宵の君に何をあげよう、真珠にダイヤ、サファイア、ルビー、それとも俺の心臓か )












20070721@原稿完成