久しぶりに感じる、神聖な気持ちだった。
彼女―という人物は今までに付き合った他の誰とも違う、ある種の侵しがたい雰囲気とも言ったら変なのだけれど、誰にも掴まらないし掴ませない何かを持っている女性だと思った。そう思いだしたのは最近のことだ。最初は違う。ただの興味本位で付き合い始めただけで、彼女も俺の周囲にいる人間と一緒で、俺の育った環境のことばかり気にする人間なのかと思ったけれどもどうやらそうではないらしい。多分それは、彼女がそういうステイタスなどに左右されない環境に生きてきたからなのだろう。だからだろうか、他人から吹き込まれるあることないことにとても敏感に反応している気がするのだ。俺と一緒に居るときに何かに怯えたような、むしろ俺との関係をどうしたらいいのかわからないような表情を作ることも最近では珍しくない。その度に、頼って欲しいと思うのだけれど、やはり俺たちは似たもの同士だからか、俺もそういう風に言い出せない節があった。けれども、調子が悪いと聞きつけ心配になって自宅を訪ねた俺を見てまるで幻覚でも見たような表情で「なんで」と言われたときは、何かが刺さったような気がする。
「入っても大丈夫か?」
「・・・」
「?」
唇を噛んだまま俯くの肩に手を添えてその表情を確かめようとしたが、表情を確かめるよりも先に零れ落ちている涙の方に驚いた。暗がりで気づかなかったが少し顔が熱をもったように赤かった。
「なんで来たんですか?」
「お前が心配だったからだ。わかるか?」
「わからない・・・っ、」
搾り出したような声は涙で滲んだようにかすれていたけれども、彼女が思っているよりも明瞭に俺の胸に響いているなんて、きっと彼女は知らないのだろう。普段、完璧だとか言われている俺でも、実際は彼女の事をどう扱っていいのかわからない時があるわけだし、何より、今まで付き合ってきた誰とも違って、慎重に付き合ってきていたつもりだった。
「俺が、何かしたか?」
彼女が何を考えているのか知りたくて、俺は迷わずに問う。俺の態度の何かに不満があったというのなら、その辺を質そうかと思わせるほど、彼女は俺の何かを変えていたのだ。俺の予想に反して、は小さく首を振った。
「ちが、う。だって、だって・・・涼介さんは迷惑だって、思う」
「思わない。そりゃ、今はこれからのプロジェクトが同時進行だからな、そう多く一緒にはいられないが・・・。とりあえず、今はベッドに戻れ。それが先だ。風邪を引いているんだろう?」
「そう・・・だけど」
「もう一度聞くけど、入っても大丈夫か?」
少し腰を折って視線を合わせて問えば、今度ははしっかりと頷いた。部屋に足を踏み入れながら、部屋の鍵を閉め終えて振り返ったの手首を捕まえる。足取りが少しおぼつかない腰を抱えて抱き上げると、掠れた悲鳴を上げてじたばたと暴れたが、暴れている体力もなかったのか途中諦めて俺にしがみつく結果になった。寝室の隅に置かれたベッドに彼女を寝かせるとしっかり毛布をかけてやる。小さい頃に弟によくやっていたがまさかこんなところで役に立つとは思いもしなかった。
「風邪・・・うつるから、」
「帰れって? 折角来たのにもう追い返すのか?」
「だって・・・」
「いいから寝てろ」
「意外と頑固なのは知ってたけど、ここまでとは・・・」
ぽつりと愚痴をこぼしたに苦笑する。
「知らなかったのか? 俺はかなり厄介な男なんだぜ」
「ホントだよ」
「でもこの厄介なのが好きなんだろ?」
「そーですとも」
好きです。と負け惜しみのように小さく零すに優しく唇を落とす。珍しく聞くことの出来た本音に、実のところ安堵している。安心したように目を閉じたの手を握ってやりながら、冷却シートに覆われた額をできるだけ労わるように撫でる。触れ合った手の小ささ、抱きしめた時の頼りなさだとかを見て、俺は彼女をほんとうに愛しく思うのだ。
運命のヒト
( 今僕の怖さや、後悔の総てを打ち明ける )
20080220@原稿完成