地球から送られてくる時間だけを頼りに、宇宙での生活は成り立っている。宇宙空間は濃紺の絨毯をひいたようにほの暗く、朝か夜か、まるで判別がつかない。何時間周期でパイロットや乗組員は始終哨戒に当たっているが、今のところ敵に動きは無い。数時間ぶりに口にする水や食料を目の当たりにしつつ、黒地に赤の奔った制服を纏ったサラは、向いに腰を下ろす年若い女性士官に問いかけた。


「どうして、大尉はジュピトリスに居るんです?」


その問いかけの響き方に、サラは僅かに後悔した。彼女の発音はどこか不安定で、今の言葉は、まるで存在してはならないような意味に感じ取れてしまうだろう。だが、サラの目の前に腰を下ろしているは、そんな響きなどものともせず、サラの提示したがった内容を、悉く掬い上げてみせた。それこそ、ニュータイプである事を如実に示しているといっていい。


「シロッコは、私の価値を理解して、私を上手に使ってくれるからよ」


紅茶のような艶やかな髪がふわりと揺れる。ここはラウンジだ。木星に向かったこともある艦だけあって、設備は良好である。その上、ティターンズは食に気を使っているのだろう事が目の前の食事から見て取れる。軍が配給しているとは思えない質の良さだ。食べ盛りの若い娘が見れば尚更食欲をそそるようなものであるが、二人の間には食事よりも重要な話題が転がっていた。ステンレス製のフォークを指先に絡ませて、行儀悪くも食卓に肘をつくと、サラとはあまり年の変わらない癖に尉官まで昇進を遂げたは唇に愛らしい笑みを浮かべてみせた。


「サラもそうでしょ? いいえ、ヤザンだってそうだわ」

「・・・えぇ。パプテマス様は、わたしを有用に使ってくれる」


サラが思い出したようにぽつりと呟いた言葉を受けて、は納得したように頷いた。


「皆そうなの。ちゃんと理解されたいのよ。そうして、あの人は私たちをカテゴリーで分けてしまう。それはとても残酷な事だけれど、私たちにとっては、幸せな事だわ」

「わたしは・・・恋とか愛とか正義とか、そんなものはどうでもいい」

「でも、あの人が好き。そうでしょ?」

「えぇ、ええそうよ。必要のある、意味のあるものをくれるわ。嘘すらそう」


追憶するように、何か大切なものを抱くように、サラは述懐を続けた。


「嘘吐きだけど、適当な嘘はつかないわ。ちゃんとした嘘は、そのあたりに転がっている事実より、よっぽど本当のことなのよ。なら・・・わかるでしょ?」

「えぇ、わかるわ」



添えられた前菜をフォークで刺しながら、はサラの言葉に耳を傾けた。



「それに比べたら、どうしようもない嘘しかつけない、綺麗なだけの人なんて、結局見苦しいのよね」









愛に溺れる嘘






20081122@原稿完成