時々、堪え切れない衝動に駆られることがある。
愛とは時に単に愛として片付けられない行動を引き起こすことがあるけれども、これもその一端なのだろうか。 僕は隣で心地良さそうに眠るの姿を見つめながら、その首筋に手をかけたい衝動を呼び起こす。 寸でのところで我にかえり、首筋から指を引き剥がすと奮える感情を抑えるように強く指を握り込む。 どうしてだろう、何の苦しみも身を裂くような痛みも知らないような安らかな表情に癒されて優しくその頬に触れたいと思っているはずなのに、 身に潜むように息をするこの凶暴な獣の性が僕の本性だというのなら僕はとんでもない人でなしだ。 そんな病んだ心を悟らているのではないかとびくびくしながら彼女を見るが、彼女は何も気づいていないかのように寝息を零している。


・・・?」


夜からはとうに離れ、かといって朝と呼ぶにはまだ遠すぎる時間だけれども、カーテンから差し込む青白い光に目を細める。 眩しさの足りない柔らかな光を浴びて眠り続ける彼女の背中の窪みをなぞる。 その所作にわずかに身じろぎして声を洩らす姿に喉の奥が乾くのを感じるが、そんな僕の感情をよそに彼女の吐息はまた寝息へと戻っていく。 幼い顔の中にある小さな唇が誘惑するようにわずかに開いて吐息をこぼしていくのに思わず目を奪われる。 緩やかな時間が身体の中に流れていくのを感じながら、ふと目に留まったのはシーツからはみ出た小さな足だった。 悪戯に彼女の柔らかな足に手を伸ばす。足の甲から指先までが僕の手で掴んでしまえるような足だ。 艶やかなピンクに彩られた爪が白い足元に映えて一層なまめかしさを増す。 彼女が起きてしまうだとかそんなことはもやは念頭にはない。ただ触れたいと思うがままに頭を垂れてその足首に唇を落とす。


「ん・・・スザク?」

「あぁ、起こしちゃったね」


微かに混じった落胆の声に自分自身苦笑を零しながらも、僕の手は彼女の足を放すことはない。 この関係に不自然さなど万に一つもないのだから、彼女に対して取り繕う必要性もないだろう。 まだ冴えない表情のままこの状況のことを考えているのか、彼女は暫く僕の姿を見つめていたけれど、 やがて納得のいかないのだろう状況に顔色を変えて、怪訝そうな表情でこちらをじっと見つめてくる。


「何してるの」

「いや、綺麗な足だと思って」

「そんなことはないわ。たぶん・・・単に小さいって感じるだけよ」


まるで力のない者の象徴だとでもいうようには不満そうに声を洩らした。 けれど、僕にとって彼女の足は違う意味を持つ。庇護を受けるもの、確かにそうかもしれないけれども、それだけの価値があるもの。 疵のひとつもない美しい足は平和な世界を歩いている象徴のようにも見える。思ったままに伝えると、はわずかに首を傾げて、唇を尖らせる。 思わずキスしてしまいたくなるけれど、僕が何気なく発した一言が彼女の機嫌を傾けてしまったのは云うまでもないことのようだった。


「それってまるで、私だけ安全な場所に生きているみたいね」

「誤解だよ、そういうつもりじゃない。本当に綺麗だって思っていただけだ」

「それは誤解よ」


声を立てて笑う君。くるくると変わる表情に僕は振り回されっぱなしだけれど、それを厭わしいと思ったことはないのだ。


「誤解じゃないよ。だって君は、何度抱いたって僕のものにはならないじゃないか」


子供じみた言葉だなと我ながら陳腐な台詞に失笑するしかない僕の唇をそっと指で押さえて咎めるわけでもなく、むしろは悪戯っぽく微笑む。 傷口を癒すように広がる笑みにただその瞳を見つめ返すしかできない。 ほんとうに、何度抱いてもその微笑のひとつさえ指をすり抜けていく気さえして心の奥で歯噛みする。 けれど彼女は小さく首を傾げて僕の肩に腕を回して、そのほっそりとした腕で抱きしめるように僕の髪に触れる。 息すら触れ合う距離で、それこそ酷い誤解だわ。と囁く唇に問い返す間もなく、とろけるような眼差しで射抜かれる。



「こんなにあなたを、愛してるのに」















密 猟 区

( あぁ 君よ思い知るがいい! )






20080504@原稿完成
今更だが、前にもこういうのを書いた記憶が・・・。