※いつものことながら、とっても俺設定です。 あたしのティエ様はこんなのじゃない!とか思われうる確率大でございます。簡単に述べさせていただきますと、ティエ様はリボンズくんとかと同じ人種的だと勝手に解釈したり、彼らには生殖機能がないとか得てしてそういった雰囲気で本当、好き勝手に描いておりますので、端的にいえば、そうい ったのが嫌な方は読まないことをお勧めいたします。












 いつもの癖で、部屋の窓を開けておいてよかったと思った。
戦争は絶えないが、戦禍とは無縁そうな田舎町の屋敷の中で、はいつものように手元の編み棒に毛糸を潜らせて午後のお茶を楽しんでいた。いつもやっているピアノのレッスンも今日は一件も入っていないためにこうして手作業に没頭できる。あと一か月と少しでクリスマスを迎えるから、生徒の一人一人に靴下を編んだり手袋を編んだりと、最近は忙しく暇をつぶせている。そう、そして、いつもクリスマスに贈ることのできないプレゼントがひとつずつ、部屋の一角に眠っていく。贈る予定もないものを作って楽しいのかと身内の者は聞いてくるが、好きな相手を想像してつくったり買ったりすることは楽しいものだ。だが、贈る相手の喜ぶ顔を見れないのはとても残念なことだ。だがいつも、癖のようにして作ってしまう贈り物にはそっと溜息をついた。完成まであと少しではあるが、恐らくいつものように手に渡ることはないのだろう。少し手を止めて、陽の温かさに目を細めたころに、自分のものとは違う影が室内に差し込むのがわかった。生徒が時折、テラスを抜けて窓から入ってくることもあったから、レッスンの日を間違えた生徒かと思い顔をあげると陽の光を背負いながら足を止める人影がある。背格好こそあの頃と少し違うが、逆光でもわかる。見間違うはずはなかった。無意識のうちに呼気を動揺と一緒に飲み込んだところで、やっとは唇を開くことができた。


「・・・いらっしゃい、ティエリア」


予感を確信に変えようとするかのようなの一言目に、青年は驚いたように目を開いたがややあって唇を開いた。形の良い、薄い唇が自分の名を刻むのを見詰めながら、その声に浸るようにして目を閉じる。


「久し振りだな、

「お茶は、いかがかしら?」

「あぁ、いただこう」


その言葉に、棚の中からカップをもう一つ取り出すと、丁寧に淵を拭いて、ポットの中にあったぬるめの紅茶を注ぐ。そうやって綺麗な色を映し出す水面に、少し年齢を経た自分の姿を見て、彼女はひっそりとため息を漏らした。あれから何年が経ったのだろうかと考えるより先に、硬質な声が礼を述べながら先細りの指がの手からそっとカップを奪う。


「何か作業をしていたのだろう?」

「えぇ、まだちょっと先だけどクリスマスがあるからね」


の言葉に納得したように頷きながら、彼はもの珍しそうに、彼女が最前まで編んでいたものを見遣る。一体誰を想像してこれを作っているかなんて考えもしないのだろうと思いながら、は椅子に腰を下ろして、彼にも席を勧めた。器用にに指先を動かし毛糸を編みこんでいく作業を繰り返しながら、目の前の青年にまた、座るようにと微笑みかけた。すこしぎこちなかったかもしれない。にティエリアと呼びかけられた青年は、少し驚いたように目を見開きながら、小さく頭を動かして会釈すると当たり前のようにの前に腰を下ろした。そこでやっと、目の前の青年の姿をしっかりと視止めることができたために、彼の立ち振る舞いが彼を否定しなかったことに予感は確信となった。何をしにきたのかとか、何をするのかとか、そういう無粋なことを聞こうとは思わなかったが、突然現れたことに少なからず驚きはした。何年を経ようとも、彼は姿を変えることがない。いつまでも同じ姿のまま時を止めたように時の流れの中にいる。だというのに、この数年で研ぎ澄まされた刃のようだった以前の彼はなりをひそめ、少し穏やかに視線をあてる彼がいる。ヴェーダの忠実な四肢になると言ってそれだけに依存し執着していた危うげだった彼はもうどこにもいないことを知りは少しだけ安心した。誰かのために生きることは意義のあることだが、言いなりになって生きることは哀れなことだ。彼がイオリアの意思の届かないところでしっかりと地に足をつけられたことを誇りに思ったが、それと同時にそれを与えたのが自分でなかったことを酷く残念に思った。手を引いて歩いたあの頃の彼も、自分自身で歩くと言って指を離した彼ももうどこにもいない。過去にしがみついているのは自分の方だとは小さく表情を歪めた。


「どうした? どこか具合が悪いのか?」


身を乗り出して表情を窺うように覗き込んでくる彼に否定するように首を振りながら、完成間近の編み物の手を休めは顔を上げた。やはり姿は変わらないまま、美しい彼がいる。


「いいえ、違うわ。昔のことを思い出していただけよ」

「あの時はすまない・・・駄々をこねて、あなたを傷つけた」


とティエリアは二人とも人と同じようなかたちをしていながら、まるで人とは違う生き物としてこの世に生を受けた。造形美を掻き集めたかのような容姿を与えられ人の進化を何らかの形で補助すべく生まれた人種。その運命から解放されるためには人間に帰化した。もともと人と同じように作られているのだから、できないことなど何もない。だが、誰もがそれを反対し、の行いを愚かだと罵った。無理もない。その選択は、誰しもに理解されないことだったのだから。人間を補助すべく生まれた種族が、人間と交配することは不可能だった。もちろん子孫を残すことも許されず、だが独自の形で遺伝子は残る。だからは人間になりたかった。誰かと寄り添い、愛し合って子孫を残して生きたかったからだ。ところが、の生き方を、ティエリアは真っ向から蔑んだ。人を監視するのが我々の役目だと、去ろうとするにそう言ったのだ。あの時は確かに、衝撃を受けたことには違いなかった。何に対しても素直で猜疑心さえ持たないと思っていた彼が、急に遠ざかったのだ。いや、本当はの方が彼から手を離したのだ。そう言われても仕方のないことをしているというのに、傷ついたことは事実だった。


「もう気にしていないわ」

「だが俺は・・・」


言いよどむティエリアには完璧を追及していた影がなかった。それどころか、自身の綻びを直そうと必死にもがいているようにも見えた。彼の方が、よっぽど人間らしかった。いくら人間になろうと、溶け込もうと努力しても、結局のところはいつだって不自然だったように思う。再び指先を動かし、編み物全体の形を掌で整えながらは彼の言葉を遮った。


「そうね、まだ悪いと思っているなら、少し埋め合わせをしてくれない?」

「どうやって?」


怪訝そうな声には不安が敷き詰められているかのような響きがあった。新しい彼の姿に、口元を綻ばせながらは大したことじゃあないわ、と昔のようにゆっくりと囁く。


「ここに座って、その間。あなたの話を聞かせて」

「俺の?」

「そう、離れていた間に何があったのか知りたいわ」

「あぁ・・・」


ややあって頷くと、彼はふと安堵したような穏やかな笑みを見せた。そのまなざしもいつになく温度があった。今まで見た、どんな表情よりも暖かくて優しい。親鳥は雛の成長のためには餌を自分でとらせなければいけない。そんなふうに、与えられるもしくは与えるだけがすべてではないことを、ティエリアはもう知っている。また手をつないだとしても、どちらかが片方を引くのではなく、一緒に歩くことができることをもうも気づいていた。彼が今の仲間や環境の話をしてくれる間に、は手元のセーターを編みあげることができるだろう。そうしたら、すぐにでも彼に贈って驚いた顔を見せてほしい。それから少し怒ったように唇を曲げて恥ずかしそうにお礼を言ってくれるだろう。そんな少し先の自分たちの姿を想像して、は胸の奥が少し暖かくなるのを感じていた。











ヘルマフロディテの体温

( このいとおしさのわけを あなただけに打ち明けるわ )









原稿完成@20081101