「今ここで選べ、お前にはその権利がある。今この場で命を落とすか、それとも私と共に永劫の夜を生きつづけるのか」
月夜を背にして芝居がかった所作で腕を広げる伯爵は、わたしにはどうにも異様なもののように映った。
いや、わたしの方が異様だったかもしれない。身体のあちこちから血を流したままで、土の上に横たわっているのだから。
月夜を背にした伯爵はいつものように飄々とした口調で話していたけれど、その瞳は幼い子供のように揺れていることをわたしは知っている。わたしだけが知っている。
ああ、かわいそうな、可哀想な人。ひとりになることが怖くて、でも逃げ出す方法を知らなくて、それでもただただ生きている。いき続けている。
ねぇ、伯爵。わたしは今とても不思議な気持ちなの。
あれほど死を恐れて、逃げ回るように、這いずり回るように、追い縋るように、どこか不安定に生きていたというのに。
今はもう何も怖くない。ただ凡てが閉じて、終わりを迎えようとしているだけ。
わたしはそれを、受け入れようとしているだけなんだと、血の巡りが悪くなった頭の中でただただぼんやりと、思っている。
「さぁ、どうする。人間」
わたしは、相変わらず月夜を背にした伯爵を虚ろな視線で追いかけながら、相変わらず血をだらだらと流し続けている。
そしてわたしは、今ここでこの場所で命を落とすか、それとも彼と永遠の生を生き続けるかという、選択の狭間にいる。
決めかねているわたしに業を煮やしたのか、伯爵は急かすようにまくし立てる。
「選ばなければお前は死ぬぞ、こんな処で、呆気なくおっ死ぬんだ。わかっているのか、!」
「ええ・・・わかってます」
「ならば、選べ、権利をまっとうしろ。それが今のお前の使命だ」
かわいそうな人。ひとりになることが怖くて、けれど慈悲を乞うことも出来ない。
そんなあなたを、わたしは酷くいとおしいと思います、伯爵。
わたしの傍らに膝をつき、わたしの選択の時を今か今かと待ち望む彼の姿に、胸が、心が、苦しくてたまらない。
冷えた雰囲気を纏う白い顔に血だらけの手で触れる。わたしは多分、いま、泣きそうな顔をしているだろう。
もう最初から、この人に出会ってしまった最初から、選択肢は決まっていた。たったのひとつだけだった。
体温が反映する事のない冷たい伯爵の身体にわたしの身体を寄せながら、わたしはわたしの選んだ答をあなたに引き渡さなくてはいけない。
「あなたと、いっしょに いきます」
わたしもあなたも、所詮は弱い生き物だ。あなたはひとりになることがこわくて、わたしはあなたを置いていくことがこわくて。
でもそれは互いに言い訳でしかない。現実を遁れるだけの、陳腐な。
それがわかっているのに、わたしはあなたといることしか選べない。なんておろかものなんでしょうね。
「選んだな、。いまさら嫌だと云っても遅いぞ、お前は永劫の夜を望んだんだ。選んだんだ」
わたしにこの選択をさせたのはあなただというのに、あなたはどうしてそんなにも泣きそうなんです?教えてください、伯爵。
そんなこと、口が裂けても聞けないけれど。あなたから乱暴に差し出される手を握り締める事しかできないのだけれど。
「優しく噛んでくださいね」
「努力はしてやる」
憮然と呟いた伯爵に、わたしはそっと目を閉じる。
Life goes on
( それでも尚、あきらめを踏破するのなら )
あーたまは人間でないくせに、人間への批判が厳しすぎるとおもうんだ。でもそんなあーたまがすきなんだ。
この間コードギアスのDVD見てたら、ブリタニア皇帝の声がOVA版アンデルセンだって事にうっかり気づいてしまった。