この世界には、永遠に明けない夜が存在している。
私はそれを知っている。何故だ、という顔をしているな、。それは愚問だよ、お嬢さん。なぜならば、私こそが、その生き証人なのだから。
神への祈りも、況してや夢すら視ることのできないこの私こそが、永遠に明けない夜を彷徨い歩く化け物なのだから。
明けない夜とはまさしく私の生そのものだ。だというのに黎明を渇望し、叶わぬ願望を抱き続ける事に疲弊している。
疲弊しているというのに、私は黎明を望む事をやめない。やめることなどできはしない。
私はまったく、何も変わってはいない。そう、あの頃から何も変わってはいないのだ。
祈りとは闘争そのものだと信じて疑わなかったあの頃と。何も変わってはいないのだ。
神とはその祈りという名の闘争の果てに、幾千幾万という人間の命を嗄れさせても、果ての果てに降りてくるのだと。
守るべき国も、守るべき民も、自分すらも喰い尽くした哀れな私の元に神は降りてくるのだと。イェルサレムはやってくるのだと。信じていたあの頃と。
なんと度し難い化け物だろう。まったく、救いようすらないというものだ。そうは思わないか、。
おまえは私を美しいものだと言うが、私は、与えられた限り在る生を生き続けるおまえこそが美しいと思う。あきらめを踏破し続けるおまえこそが。
・・・そして、この哀れな私を愛しんでくれるような物好きはおまえくらいだ。
慟哭を繰り返す夜の王さま
そうね、アーカード。あなたの云うような化け物はそういうものなのかもしれない。明けない夜。とっても素敵な言葉だわ。私はそう思う。でも永遠に明けない夜なんてないと思うわ。
終わりがないことなんてない。はじまりがあるように、かならず終わりがやってくる。
そして、変化はあっても、ごくごく些細なもので、劇的な変貌なんてこの世にはないのだと。
仮に、完全に何かを変えることができたとしたなら、それは何かを制しているからよ。完全なものならば、すべてを制しているから。
そうして上乗せして行くのよ、浅ましくね。人はそういう生き物だわ。けれど、あなたはそれを美しいと思うのでしょう? アーカード。
そう思える事はとても素敵なことだわ。だから、そんなあなたのために、いつか、あなたに黎明をくれる人が現れるわ。きっとね。
でも、それはわたしではない。あなたに、あなたの永遠ともいえる長い長い生に終わりを与えるのはきっとわたしではないと思うわ。
なぜって? わたしはあなたの前に立つことはできる。あなたのその夜の闇に濡れたような眼をまっすぐに見つめてね。
でも、わたしはあなたに殺意をもって接することができない。愛情をもってしか、あなたに接してあげられないわ。
血みどろの闘争の中で死という黎明を乞うあなたを、悲しい事にわたしは救えない。あなたの心臓に杭を突き立てる事は残念だけどできないわ。
だって、あなたを愛する事でしか、私はあなたを救えないのだから。
20070407 原稿完成